秋田の酒物語 三人の杜氏の言霊 - こめたび?秋田産地直送。自然栽培米、アイガモ農法天日干し米、いぶりがっこなどを産地直送でお届けします。

第2回  「水、止めてください」

森谷一番ね、すごくわかりやすい言葉が、我々夏場になれば湧き水を案内するっすね。
首藤はい。蔵の仕込み水ですね。
森谷あー。すごいおいしい。冷たい。って言って、そのあとに
「十分見学したから、止めてください」
って言うわけ、湧き水を。もったいないからと。

首藤はい・・・ん?・・・ああ?わははははは!
森谷最初はそれを笑い話として私は話をしてたんだけど、よく考えてみると、それだけすごいってことだっすよ。もったいないって。
そこあたりでねすかね。ものの考え方って。

首藤なるほど。きれいな水がずっと流れていることはすごい。
あ!私も今笑ってしまったけど、よく考えたらすごいことだ!

【天の戸の湧水】
蔵の敷地内、地中に埋め込まれた大きな樽の底から湧く天の戸の仕込み水。
そこに水があるのかどうか確かめたくて、つい、手を伸ばしてしまうほど透明です。
一口含むと、柔らかく何の抵抗もなく喉を通り過ぎて細胞の隅々に浸み込んでいくようです。
水温は、年間を通して11度。地下から湧き出す水の温度は、その土地の年間平均気温と同じなんですって。
(首藤)
浅舞酒造

森谷その、えーって、笑ってしまうけど、よくよく考えてみるとそれだけすごく大切で流してしまうのが、もったいないようなものがそこから湧き出てるっすね。
首藤そうですね?。
森谷我々はそいうのを普通に使ってる。
そういう視点で言うと、近代化になって、みんなでコストの競争をしていく時代に、手で触って感覚でどうのこうのってやってる酒造りが逆に希少だし貴重だっすね。

首藤やりたくてもできないですね。
森谷撮れてますか?

浅舞酒造

カメラマンばっちりです。
森谷さっきからすごいシャッター押してるけど押してるだけだっすべ。
カメラマン撮ってます(笑)
森谷「私たちはこれがいいと思います」というのは独りよがりの場合があって。
でもその都度評価されるっすね。この方向に持って行くのに一回ごとに評価される。

森谷

森谷酒を造ってるときはすごく、うちぐらいねレベルの高い酒を持ってる蔵はない、と思ってやるんですよ。そう思わないと不安定になるんですよ。
酒を造り終わったら、一本一本「いやーほんとにこれでよかったのかな」と、夏場は反省の日々だっすね。

首藤え?!
森谷夏場は、「いやーもうちょっとこうすればよかったな、ああすればよかったな」とずっとやって。
そしてまた10月頃になるとまた、「うちのチームぐらい腕のいい集まりはないよ」

首藤はいはい。
森谷んだっすべ。でなきゃ商品出されねっすべ。
「すいませんこんなもんで」って売ります?最高のモノだって言わねば売れねっすべ。んでお金もらわれねっすべ。試作品なんて言ったらはたかれるっすべ。

首藤そのバランスを保ちながら前に進めるのがすごいなと思います。
森谷「夏田冬蔵」(※)という言葉を作ったときに、
実は「裏・夏田冬蔵」があって、
(夏田冬蔵は)夏に田んぼ、冬に蔵だっすべ、
(裏・夏田冬蔵は)冬にもう夏の田んぼのことを考えてて、
夏に田んぼをしながら造りのことを考えてる。

【夏田冬蔵】
夏は田んぼで酒米をつくり、冬は蔵で酒を造るという天の戸の酒造りの哲学。
原料の酒米栽培から、日本酒造りまでの流れを、農と蔵が連携して取り組む新しい仕組みの誕生。
浅舞酒造
「夏田冬蔵 - 新米杜氏の酒造り日記」
1995年 森谷康市著

首藤ああ?そうですか。
森谷つまり集中してないっていう話。
一同(笑)

(続く)